ある日、私は女子トイレで桃ちゃんたち女の子6人にいじめられていました。「先生にいじめのことをチクっただろう」というのです。私ではありません。仕返しが怖い私が、そんなこと言うはずありませんでした。
「なんなの? その表情がむかつくんだけど」「私は悪くないとかって思ってんの?」桃ちゃんたちは言いがかりをつけてきます。「…わるいと思ってます…」「その顔と言い方が腹立つの、絶対思ってないでしょ、ねえ」私は昔から黙っていても、生意気だ、反抗的だといわれることがよくありました。愛想よく振舞うのが得意ではなかったからと思います。
「本当に思ってるなら土下座しなよ」彼女たちはそういいました。私は困って途方に暮れていました。そこに女子トイレのドアをバンっと開けて真壁くんが現れたのです。
「おい、お前ら何やってんだよ!いい加減にしろ!」
真壁くんは外から様子を伺っていたようでした。
「やっぱりお前らが町山さんをいじめてたんだな?
このことは先生に報告するからな!」
私は、真壁くんが私なんかのために助けにきてくれたことを嬉しく思いました。しかし同時に不安に思いました。すごくありがたいけど、桃ちゃんたちを刺激することで、イジメがもっと酷くなるのを心配したのです。案の定、先生に報告するといわれた女子たちは明らかに焦っているようでした。
すると桃ちゃんがいいました。
「…先生にチクったのもあんた?」
「チクったってなんだ。先生に報告するのは当たり前だろう。
クラスでイジメがされてる可能性があると先生にいったのは俺だ。
これで証拠もはっきりつかんだ。もうお前たちに町山さんはイジメさせない」
真壁くんのいうことはあまりにも正論で、かっこよく見えました。彼は本当に正義感で怒っていました。さすがに他の女子たちは、真壁くんにたじろいでいるようでした。
しかし桃ちゃんは落ち着いていいました。
「それは困るなぁ、真壁くん
…でも…『まだ』誰にもいってないんだよね?」
「ああ、だがこれから報告に行くところさ。
まだ先生もぎりぎりいる時間だろう」
すると桃ちゃんは、トイレの入り口のドアに鍵をかけてしまいました。
「バカ真面目だなぁ、真壁くんって。
まっすぐ先生呼んでくればよかったのに。
わざわざ私たちに教えにきてくれるなんて」
「….どういうことだ?」
「ふふ、真壁君が先生に言いたくなくなるようにしてあげる
いくら男子だからって1人対6人で勝てると思ってるの?」
その言葉の意味がわかり安心したのか、他の女の子5人たちも余裕を取り戻したようでした。