今くすぐれるアイドル「脇腹くすぐり券」について

こちらの前話の続きです。

「脇腹」のくすぐり券

くすぐり券には、1%の割合で脇腹のくすぐり券も交じっている。
この券に当たったファンは、脇の下・脇腹のどちらか好きな方をくすぐることができる。しかも時間は30秒だ。

脇腹のくすぐり券の方がレアなのには理由がある。

アイドルの女の子たちは、皆、若くて華奢な女の子が多い。最年少の希など、まだカラダが発育しきっていない女の子もいる。手加減の知らない男性ファンたちが、何時間も彼女たちの細い脇腹を力一杯、グリグリと揉んでくすぐったりしたら単純に危ない。

脇の下ならいくらくすぐっても、(精神はおかしくなるかもしれないが)身体へのダメージはほとんどない。

しかし濃い男性ファンたちの間では、このような理由でより希少な「脇腹くすぐり券」は価値の高いものとして、オークションなどでも高値で取引されていた。特に、脇の下よりも脇腹のくすぐりに弱い女の子の「脇腹くすぐり券」は高値がついた。

例えば、メンバーの瑠璃がそうだ。

瑠璃はルックスは一番可愛いと定評のあるメンバーだが、すごく人見知りで内向的で、あまり愛想を振りまくタイプではなかった。ステージ上ではキビキビとかっこよく踊るし、歌もメンバーの中では抜群にうまいが、ステージ外でマイクを向けられるとモジモジして何も話さない。

トーク番組などでも、声が小さくて「何を言ってるわからないぞ!」と司会者にイジられるパターンが大半である。彼女自身もあまり社交的でないことをコンプレックスに感じていた。

しかし、彼女は脇腹をくすぐられるのが異常に弱かった。

アバラ骨の1本1本の間に指を食いこませ、優しくモミモミしてあげるだけで、手足の拘束具が壊れるんじゃないかと思うほど大暴れし、列の最後尾に聞こえるくらいの大声で爆笑した。

「ぎゃーーーーーっははははははははは、っはっは、じぬっ、
死ぬーっはっはっはっはっはっはっはははははっははは」

「あれー、瑠璃さん!
ちゃんと大きい声も出せるんですね(笑)
ほらー、モミモミモミー!」

「ぎゃーーっははははっはははははははあははっ、
やっ、やべでーっははははっはははははは、許じでーっはははははははっははは」

列に並んでるファンからはどよめきの声がおこる。
あの大人しくて内向的で、声も蚊のように細い瑠璃ちゃんが、「ぎゃーはははは」といって笑っているのだ。信じられないファンがいるのも無理はない。

ある熱狂的なファンは、金にモノを言わせて大量の「脇腹くすぐり券」を買い占め、それをすべて瑠璃ちゃんの列で使ったこともあった。

「ぐふ、今度は、脇の下と脇腹、どっちがいい?」

やや気持ちの悪い見た目のおじさんが、脇腹くすぐり券を手にヒラヒラさせながら彼女の前に立つ。この日、彼が瑠璃の前に現れたのはもう6回目だった。

「ひくっ、もうやだぁっ、
脇腹はいやでずっ、脇の下にじでぇ、
お願いじばずっ」

これはファンにとってはゾクゾクする瞬間でもある。

日常生活では何ものでもない男性ファンたちが、本来なら手の届かないアイドルの女の子たちに、「お願いっやめてっ」とか、「お願いします」と半泣きで懇願されるのだ。こんなに自尊心や支配欲が満たされることはない。くすぐれるアイドルを企画したプロデューサーは、そうした男性の心理まで利用していたのだった。

もちろん、優しいファンなら本当に泣きながら「許してくださいっ」と懇願すれば、くすぐりを手加減してくれたり、一切くすぐらない男性もいる。だから彼女たちもイベント終盤になると、恥もプライドを捨てて、ファンの男性に「くすぐらないでくれ」と懇願する。

だが、この男性に懇願は意味がなかった。

「ぐひひっ、どうしよっかなー?(笑)」

ニヤニヤしながらそういう30代男性。
小太りで汗をかき長髪にヒゲを伸ばし、いかにも不潔そうなニート生活をしてそうな男性。彼はこの日のために1年間お金を貯め、借金をしてまで瑠璃の脇腹くすぐり券を買い占めてきたのだった。

「でも瑠璃ちゃんは、
おっきい声を出す練習しなくちゃ、でちゅからねー」

「いやぁっ、やめて、許してくださいっ」

「ダメダメでちゅ。
我儘はよくないでちゅよ
ほーら、モミモミモミ」

「ぎゃぁーっはっはっはっはっはははははははははっははっ、
やべでーっははははははははははーっ、、ほんどっ、無理ーっははは
あーっはっはっははははっはっはっ」

ここで死ぬほど屈辱的な事件がおこる。
ゴツイ男性の手で細いウエストを掴まれ、あまりに容赦なく脇腹をモミモミされたため、瑠璃はオナラが出てしまったのだ。

ぷぅううぅうううぅ~

「いやぁあーっはっはっはははははっ、ちがっ、ダメーっはははははっはははははは」

あまりに恥ずかしい音が出たので、パニックになる瑠璃。

女の子のアイドルといえども、オナラは生理現象なので仕方ない。
腸マッサージなど、お腹のマッサージでもオナラが出てしまうことはよくある。まして手足を拘束されて抵抗できない状態で、脇腹をモミモミされたら仕方ない。

だが人一倍、羞恥心の強い瑠璃には耐えられないことだった。

あの恥ずかしがりの留美が、必死に大きな声を出してオナラの音をかき消そうとする。
顔は真っ赤で目には涙を浮かべている。当たり前だ。アイドルの女の子が、ファンの男性の前でオナラするなんて、あってはならないことだ。

紳士なら聞かなかったことにしてあげるだろう。
だが、今回は相手が悪かった。

「あれれれぇ、
瑠璃ちゃん、オナラしちゃったんでちゅか?」
「恥ずかしー! ダメでちゅよっ、女の子なのに」

なぜかテンションが上がるあまり、
後ろの列にも聞こえるくらい大声えを出すファンの男性。

内向的で大人しい女の子ほど、羞恥心が強くて人目を気にする性格であることは珍しくない。彼女もそうだった。それが、大声でオナラをしたと吹聴され、彼女のアイドルとしてのプライドはズタズタだった。

「アイドルが人前でオナラしちゃダメでちゅよっ!
お仕置きでちゅ! ごめんなさいしなさいっ!
モミモミモミー」

「ぎゃーはっはっはっはっはっ、本当無理だっでばぁーっはっはっははははははっ、
おがじぐなるーっははははっはははははははははっ」

彼は興奮のあまり、30秒ギリギリまで、瑠璃ちゃんの脇腹を揉み続け、最終的にはスタッフに無理やり引きはがされた。

「ぐふっ、ぐふっ、もう30秒か。
じゃあね、瑠璃ちゃん!
あと10枚あるから、また戻ってきまちゅね?」

「次はオナラしちゃ、ダメでちゅよ!」

「ひっく、もういやぁっ」

各メンバーの紹介

ちなみにアイドルの女の子は皆違うタイプの女の子である。
こっから話の構成上、一応、各メンバーを簡単に紹介しておこうw

希 ・・・ とにかく明るくてハシャいでる元気な最年少メンバー。まだ現役の中〇生である。ズケズケと歯に衣を着せぬ物言いや、大人にも遠慮せずに絡める性格、失礼なことを言っても許されるキャラから、トークイベントなどでもいつも彼女が出てると盛り上がりやすい。痩せていてまだ胸も小さいが、顔も一番小さくて可愛い。

里美 ・・・ 年上のオジサンに甘えるのが上手で、いつもふわふわした服装にスカートを履いているような、甘め担当。上目遣いで少し鼻にかかった喋り方をするブリッコだが、やり過ぎ感はない。適度なあざとさや、ときどき見せる毒舌、また下ネタにも抵抗なく楽しそうに笑うところから、年上の男性人気が高い。胸も大きめ。

朱莉 ・・・ グループのリーダー。真面目で責任感が強く性格もハキハキしていて、デビュー時からずっと黒髪の正統派アイドル。勉強もできて運動経験もあり、明るく社交的な「良い子」である。だが笑いを取るような面白いことをポンポンいうタイプではない。胸はCカップ。

瑠璃 ・・・ ルックスは一番可愛いと定評がある。だがとにかく人見知りで、カメラを向けられてもモジモジしてあまり喋ろうとしない内気な女の子。歌や踊りも上手くステージではすごくカッコいい。音楽やダンスには一番ストイックだが、トーク番組などでは全然喋らない。ファンに愛想を振りまくのもあまり得意でない。

優亜 ・・・ やや年上のお姉さんメンバー(20歳)。身長も5人で一番高くて手足が長く、ファッションなども一番洗礼されていて大人っぽい。ハーフ顔。女性誌のモデルもやっているため女性人気も高い。少しSっぽくて男に媚びない。だが、全く勉強ができない、意外と天然などのイジりやすいギャップあって、ファンからの好感度は高い。

次はくすぐり交流会での1人ずつの様子を見ていこう。
(多分続く)

いま脇の下をくすぐれるアイドル

20XX年の日本。
アイドルの業界は空前のブームで盛り上がりを見せていた。だがその競争はどんどん激化し、コンセプトはどんどん細分化されてマニアックになっていた。

例えば、新しく登場したのが「脇の下をくすぐれるアイドル」。
若くて可愛い女子〇学生5人組のアイドルだ。

普通に歌ったり踊ったりするアイドルなのだが、普通のアイドルと違うところがある。それはCDに同封されている「くすぐり券」を入手すると、くすぐり会に参加することができ1人15秒間、好きな押しのアイドルの脇の下を15秒間、コチョコチョできるのだ。

くすぐり交流会の仕組み

当日、5人のアイドルのメンバーたちは、全員、X字の拘束具に手足を広げる格好で、立ったまま拘束されている。もちろん衣装はノースリーブで脇の下は丸出しだ。脇の下を自分で閉じることはできないし、逃げることもできない。

ファンは好きな押しのアイドルの前に1列に並ぶ。
先頭から1人ずつスタッフに呼ばれる。呼ばれたファンは前に出て、拘束されているアイドルの目の前に立つ。1人につき15秒間の時間が与えられる。

この15秒間は、好きなだけ脇の下をくすぐることができる。
脇の下以外を触ることは一切許されないが、脇の下の触り方・くすぐり方は自由だ。またくすぐっている間は、自由にアイドルの女の子に話しかけることができる。

初めての方だと、

「ずっとファンでした!」
「今日は会えて感激です!」
「本物もめちゃくちゃ可愛いですね!」

などと話しかけながら、脇の下をくすぐる男性ファンが多い。
プロ意識の高いアイドルの女の子は、なんとか「ありがとうございます!」と答えて、ファンと15秒間、会話をしようと試みる。だが、脇の下をコチョコチョされてしまうので、ほとんど会話にならないことが多い。

「ぎゃっははははっはははははーっ、あっ、ありがーっははははっはははは、ひっひひひっ、くすぐったいーっはっはははははっははっ、だめーっははははっははっ」

自分では閉じられない脇の下を、はじめて会う男性ファンにコチョコチョとくすぐられて、顔をクシャクシャにして爆笑するアイドルたち。

特にくすぐりに弱い子の場合は、ほとんど会話なんて成立しない。ファンに何を話しかけられても、ただ15秒間、「ぎゃはははははっ」「やめてっ」と無様に笑い苦しむだけで終わる。

本来なら、ファンと交流する握手会などの場は、自分をアピールする場でもある。
そのため、アイドル達は、できるだけ可愛い顔と声を作って、ブリッコをしたり、優しくお姉さんのように接したり、自身のキャラを演出する。

だが、このくすぐり交流会では、アイドルは顔やキャラを「作る」ことができない。6~7時間のあいだ、代わる代わる15秒ずつファンに脇の下をくすぐられて、男性の前でみっともなく大口をあけて爆笑したり、苦しそうに飛んだり跳ねたり、ときには、半泣きになってくすぐられるのを嫌がる。

そこでは、本当のありのままのアイドルの姿が見れる。それが、くすぐれるアイドルという訳のわからないコンセプトが、意外にもヒットした理由だった。

当日のくすぐり交流会の様子

交流会にはアイドルの休憩時間はない。
会場の人数にもよるが、基本的には6~7時間のあいだ、休憩なしで代わる代わるファンに脇の下をくすぐられる。その間、手足の拘束具は1度もほどいて貰えない。それが暗黙のルールである。

イベント中は、脇の下を散々くすぐられて、汗をかいても、涙を流しても、あるいは、ヨダレを垂らしたり鼻水を出してしまったりしても、スタッフは顔を拭うことすらしてくれない。だから後半になればなるほど、綺麗なメイクは崩れ、アイドルの顔はぐちゃぐちゃになる。

こんな状態で

「今日もすっごく可愛いですね!」

とか言われながら、ファンに脇の下をくすぐられるのは、もはや嫌味である。

くすぐり会も終盤にもなると、およそアイドルとは思えない顔を公衆に晒すことになる。コチョコチョされ続けたアイドルは笑い疲れ、くすぐりに弱い子は「もうやめてっ」と泣き叫ぶこともある。全身にぐっしょり汗をかくため、衣装はピッタリと身体に張り付き、下着が透けたり、恥ずかしい身体のラインが丸見えになる。

それが楽しみなファンは終盤に来るし、可愛い顔のうちに会ってくすぐりたいファンは最初に来る。

もちろん本当に熱心な濃いファンは、朝からイベント終了まで1日中いる。

「やっほ、希ちゃん! また来ちゃった!」
「やだっ、待って、もうやめてーっはっはははははははははははっ、
ぎゃーっははっははははははっははははっ、はははははっ」

「ほーら!希ちゃんの脇の下、こちょこちょこちょー♪」
「だーはっはっはっはははっはっははは、だめだめーっはっははははははっ」

CDを1人で2枚以上買ってくすぐり券を複数入手した場合、列の最後尾から並びなおせば、1人で何回もアイドルの女の子をくすぐることができる。執拗なファンなどは1人で何十枚も買って、何回も何回も列に並んでくすぐりにくる。

メンバーの中でも最年少で、一番脇の下のくすぐりに弱い希は、いつも最初に泣き出すことでファンの間でも有名である。そのため、必死に嫌がって泣き叫ぶ女の子をコチョコチョして笑わせたいというサディスティックなファンは、希の列に1日中並ぶことも多い。

脇の下のくすぐり方

アイドルの女の子は15秒間、ファンに脇の下をくすぐられては、次の人が呼ばれるまでの間隔(10~15秒)だけ休憩する。そしてまた次のファンに15秒間くすぐられる。

これが永遠と繰り返されるのでイベントの間、女の子はずーっとくすぐりに慣れることはない。まるで終わることのない拷問をされているような気になってくる。

脇の下のくすぐり方も、ファンによって様々だ。
それが、またくすぐりに慣れることを困難にしている。

例えば、同じ脇の下をくすぐるだけでも、優しくサワサワとくすぐる人もいれば、人差し指で円を描くようにくすぐる人も、5本指でワシャワシャとくすぐる人も、爪をたててカリカリとくすぐる人もいる。また通な人は、脇の下のツボを指で突いたり、グリグリと押し込むようにくすぐる人もいる。

「優亜さんは、こうされるのが弱いんですよね?」

そういって1人の男性ファンが、優亜の脇の下の一番深い窪みに両手の人差し指をあてがう。美人ですらりとした体型の優亜は、脇の下の窪みに人差し指をあてがわれて、その大人っぽい顔を苦痛と恐怖に歪ませる。

「…だめっ、やめてくださいっ….」
「そーれ! 優亜ちゃん、つんつん攻撃だ! 
つんつんつんつん!」

「ぎゃーーーーーっははっははははははっははははっ、
それダメーっ、ははははっ、それは本当ダメーーっはっははははははは、
息っ、息できないーーーーっはっはははははっはははははははっ」

「えー、
でもまだ10秒もあるよー、優亜ちゃん。
そーれ、つんつんつんつん(笑)」

メンバーの中で一番大人っぽい優亜。
女性向けの雑誌などでもモデルとして活躍しているカッコいい系の彼女が、ファンの男性に脇の下をツンツンされて、気がおかしくなったように長いサラサラの髪の毛を振り回し、爆笑している。

「あの大人っぽくてクールな優亜さんが、
人目も憚らずに、胸を揺らしながら笑い悶えてる姿を見るのが一番好きなんだよなぁ」
「わかるわかる! だから俺も優亜さん押しなんだよねー(笑)」

くすぐりの趣向もファンによってさまざまである。

単純に女の子が可愛く笑っているところを見たい、という健全なファンもいる。一方、自分がこの子を無理やり笑わせているんだ、という征服感に満足するファンもいる。

女の子が笑い疲れて半泣きになっていたら、くすぐらずに15秒間休ませてくれるファンもいる。「笑ってるところは見たいけど…、大好きなアイドルが泣いてるところは見たくない」という健全で優しいファン。

しかし一方で、「もうやめてっ」と泣いてるところを無理やり笑わせたい、というドSなファンも多い。普段は可愛い衣装をきたり、カッコよくステージで踊っている彼女たちの綺麗な顔を、鼻水とヨダレでぐちゃぐちゃな顔に歪ませたい、というファンたちだ。

結局のところ、こういうファンたちが一番熱心にCDの売上に貢献し、たくさんの「くすぐり券」をオークションで買い集め、何度も何度もくすぐりの列に並びに来るから、女の子にとっては地獄だ。

次話:いまくすぐれるアイドル「脇腹くすぐり券」について